祇園祭のお稚児さん、歴代の顔ぶれと知られざる歴史の真実「生贄」説は本当？
京都の夏の風物詩、祇園祭。豪華絢爛な山鉾が都大路を巡行する姿は、まさに圧巻です。その中でも、ひときわ目を引くのが、長刀鉾（なぎなたほこ）の先頭に乗る**「お稚児さん」**。神の使いとして重要な役割を担う彼らは、一体どのように選ばれ、どんな歴史を背負ってきたのでしょうか。そして、一部でささやかれる「稚児は生贄だった」という恐ろしい説は、本当なのでしょうか？
この記事では、祇園祭の歴史をひもときながら、お稚児さんの役割と歴代の姿、そして気になる「生贄」説の真相について詳しく解説します。
祇園祭の歴史と「お稚児さん」の役割
祇園祭は、今からおよそ1,100年以上前の平安時代、貞観11年（869年）に京の都で疫病が大流行した際、これを鎮めるために行われた「祇園御霊会（ぎおんごりょうえ）」が起源とされています。当時の人々は疫病を怨霊や神の祟りと考え、その怒りを鎮めるために、国の数にちなんだ66本の矛を立てて祈祷を行いました。これが、現在の祇園祭のルーツです。
室町時代になると、この祈祷に町衆（商工業者）が積極的に関わるようになり、豪華な山鉾が作られるようになりました。
そして、山鉾巡行において重要な役割を担うのが**「お稚児さん」です。お稚児さんは神の使い**とされ、山鉾巡行における様々な神事に臨みます。特に、毎年巡行の先頭を「くじとらず」で務める長刀鉾には、「生き稚児」と呼ばれる実際の子どもが乗ります。
かつては船鉾を除く全ての鉾に「生き稚児」が乗っていましたが、天明の大火（1788年）で壊滅的な被害を受けた函谷鉾が、天保10年（1839年）に復興する際、稚児人形を用いたのをきっかけに、他の多くの鉾も人形に替わっていきました。現在、巡行で「生き稚児」が乗るのは長刀鉾のみとなっています。
お稚児さんは、8歳から10歳くらいの男の子が選ばれ、厳しい稽古を積みます。巡行当日には、化粧と豪華な装束を身につけ、地上を歩くことなく山鉾に乗ります。これは彼らが神聖な存在であるため、地面の穢れに触れないようにするためです。
彼らの最も重要な役目は、長刀鉾の前に張り巡らされた「注連縄（しめなわ）」を、巡行中に太刀で切り落とす**「注連縄切り（しめなわぎり）」**という神聖な儀式です。この儀式を行うことで、祇園祭の巡行が正式に始まることを告げ、疫病をはらう結界を解く意味合いがあります。
お稚児さんは「生贄」だった？その真相とは
一部で「お稚児さんは生贄だった」という恐ろしい説が語られることがありますが、これは誤解です。
確かに、祇園祭が疫病退散を目的とした御霊会に起源を持つため、過去の歴史の中で「神への供物」といったイメージが結びつけられることはあったのかもしれません。しかし、祇園祭の歴史において、稚児が実際に「生贄」として捧げられたという記録や事実は一切ありません。
お稚児さんは、あくまで神様の依代（よりしろ）、つまり神様が宿る存在として、神聖視されてきました。そのために、厳しいしきたりや作法が求められ、普段の生活とはかけ離れた特別な存在として扱われたのです。
**「地上に降りない」「女性は乗れない（長刀鉾の場合）」**といった厳格なルールも、お稚児さんや山鉾の神聖さを保つためのものであり、生贄とは全く異なる意味合いを持ちます。
歴代のお稚児さんと選ばれる基準
お稚児さんは、その年の長刀鉾町の関係者の中から選ばれるのが一般的です。本人の資質、気品、健康状態などが考慮され、小学校3、4年生くらいの男の子が選ばれることが多いようです。
お稚児さんの選出は、祇園祭にとって非常に名誉なことであり、選ばれた子どもとその家族にとっては一生に一度の大役となります。近年では、ウェブサイトなどで過去のお稚児さんの名前や写真が紹介されていることもあります。
（具体的な歴代のお稚児さんのリストは年によって更新されるため、特定の年度を挙げることはここでは避けますが、長刀鉾保存会や関連する団体の公式サイトなどで、その年の稚児の氏名や、過去の記録が公開されていることがあります。）
まとめ：お稚児さんは、祇園祭の神聖な象徴
祇園祭のお稚児さんは、「生贄」のような恐ろしい存在ではなく、むしろ疫病を鎮め、祭りの安全と繁栄を祈るための神聖な使者です。彼らの役割は、祇園祭が長年にわたり受け継いできた信仰と伝統、そして人々の願いを象徴しています。
夏の京都を彩る祇園祭に訪れる際は、煌びやかな山鉾だけでなく、その上で大役を務めるお稚児さんの姿にも、ぜひ注目してみてください。彼らが担う歴史と意味を知ることで、祇園祭がより深く、感動的なものになるでしょう。